True North:True Northは新しいa-haの方向性を感じられる映画(初見感想・ネタバレあり※一部修正しました※)

True North初日初回(日本橋)へ行ってきました。何がすごいって、初回の人の数。私が出かける直前に見た感じでは119席中、空席30席くらいということで空席が約1/4。つまり75%くらい埋まっているという状況でしたが、会場でも購入する人がいたりと、最前列以外、ほぼ埋まっていたようです。

ちなみにチラシは置いておらず、大きいポスターもありませんでした。上映するスクリーン4の入口のドアに1枚張ってあるのみでした。ということで、ポスター画像の下からネタバレスタートです。うっかり開いてしまってネタバレ苦手な人はここで引き返しましょう。

映画評の嘘つきめ(笑)

事前に読んでいたノルウェーの映画評で気になっていたのが「全体的に暗く、ポールは若干笑顔になりそうな気配を感じるがモートンとマグネは笑わない」というものでした。既にリリースされている『I’m In』のMVはそんな感じだし、全体がそうだと寝てしまいそうだなと思っていたんですが、結果だけいうと、眠くはならなかったですし、それどころか、モートンの最高の笑顔つきでした。もしかして、『I’m In』のみの感想だったのでは…という気がしつつ、このモートンの輝くような笑顔が出た瞬間は、「スティアン、ありがとう!」と(笑)。そして「ノルウェー映画評の嘘つきめ」と思いました。まあ、それはともかく…。

新たなa-haの方向性を感じられる映画

映画の構成

さて。映画そのものはどんな感じだったかというと、大きく3-4つの部分にわかれます。ノルウェーの自然の映像、メンバーの単独での思いの吐露、メンバーの演奏シーン+ストーリー部分です。
このストーリー部分は、『I’m In』のMVはそのままに、他の曲の合間にもそれとは一貫してるのか別なのかわからない若者のストーリーが流れます。
エンドロールを見る限り、彼等にはそれなりの役と脚本はあると思いますが、MVのような感じで一切の台詞はありません。ストーリーとしての理解は、たとえば『Angel in the snow』で、モートンが過去に遡って恋人を助けたというのがわかる、『Minor Earth Major Sky』ではモートンが女の子の幻影を見て置いてきぼりにされるというストーリーはわかるわけですが、そういう風には合間合間のストーリーの理解は困難でした。

というわけで、ストーリー部分についての解釈は人それぞれだと思うので、以下の感想はあくまで自分が感じたことだけで書いていることをご承知ください。(パンフもなかったので意図が本当にわからない)

「破壊(終了)からの再生」と二酸化炭素

個人的に感じたのは、「火」がキーワードになっているというところでした。マグネは、このアルバムの曲のイメージを「海」と関連づけていましたが、映像では「海」と「火」が全編にわたってとても印象に残りました。そしてその二つに「破壊(終了)と再生」を強く感じました。

マグネは、この『True North』のアルバムでの自分が作った曲は、海のイメージがあり、そこにモートンの声を想定して作っていたと言っています。曲のイメージが湧いたのも船の上だとも。

海は言うまでもなく、生物の根源。その生み出される場所へ船に柩を載せて送り出すヴァイキング式のお葬式。海という中で「生と死」が表現されているように感じました。

また、途中にあるカップルが家を燃やすシーン。その少し前の、若者がフラストレーションをためている場面、そして恋人らしき女性とともに、自ら火をつけ、家が燃え落ちるのを見て落ち込むシーン。この若者がなぜ嘆いているのかはわかりませんが、私は彼はこの家に何らかの執着や苦い思い出があり、そこから離れるための儀式なのではないかと思いました。スウェーデンの映画『ミッドサマー』では、夏至の儀式としてちょっと怖いシーンがありましたが、何かを生み出すために何かを犠牲にする、北欧神話のオーディンが自らを自分に捧げる儀式で「全知」の能力を得たようなことと、どこか類似しているものを感じました。

何かを手放し、或いは抗えない流れの中で失うものへの哀愁と、新たなスタートへの展開。

a-ha自身も、これまで休止や解散を経て、先日公開された『a-ha THE MOVIE』では「3人でやることが如何に困難か」というのを見せてきました。ある意味、これまで数度、終了・再生を繰り返しているバンドでもあります。活動していた時期でも、ポップでキャッチーなファーストアルバム『Hunting High and Low』から一転して暗いイメージの『Scoundrel Days』、再びポップ路線に戻った『Stay On These Roads』からのシンプルなロック路線の『East Of The Sun, West Of The Moon』『Memorial Beach』。毎回、前作の路線を破壊してから新しいものへと展開していく彼等のスタイルは、まさしく「終了・破壊からの再生」です。(モートンのソロ活動の始まりも、まさしくそれでしたしね)

そして、「水と炎」「破壊と再生」といえば、ノルウェーの福祉を支えている「石油生産」です。近年、その生産量は減っていますが、年金やその他の福祉に使われており、モートンマグネのいう自分たちの世代の失敗というのは、まさにこのことではにかと思いました。同じく「手が黒く汚れている」も。(2022/09/25修正)

ノルウェー語の教科書によると、昔は水力を使って材木を運び、工業化の水力発電には滝を潰して水力発電させたそうです。そして今は海に石油コンビナートがあるわけです。日本では原子力発言についての議論がわりとありますが、同じようにノルウェーでは石油の生産について環境問題の観点から議論されているようです。二酸化炭素については、モートンは80年代後半から積極的に活動をし、電気自動車の拡大に一役買っているわけですが、こちらの記事によると、ノルウェーでは暖炉による二酸化炭素排出も議論の一つとなっているようです。

だからなのか、ノルウェーの映画評論の中には「もう、この手の(環境に対する指摘)ものはお腹いっぱいだ」というのもありました。それだけ議論されているということなのでしょう。

それでも続いていく

まあ、それで「じゃあどうするのさ」という話になるわけですが、私はその答えが『I’m In』と『You have what it takes』の歌詞に象徴されている気がします。

つまり「諦めずに続けること。はじめること」。「失敗をおそれないこと、失敗を糧にすること」です。だからこそ『I’m In』を冒頭に、そして『You Have What It Takes』を最後に持ってきたのではないかと。本当は、途中の歌詞も全部理解出来たら良かったんですが、そこまでの英語力が無いので、その辺りの謎が解けるのは来月の新譜発売まで待たないといけないかもしれませんが。

そして、「諦めずに続けること、始めること」は、彼等の活動についてもリンクしているのではないかと思いました。『a-ha THE MOVIE』では、冒頭でも最後のほうでもモートンは「広いところで三人一緒にやれば、またa-haを取り戻せる」という意味になる言葉を言っていますし、今回の映画では「それが出来た」ということがわかるような発言もしています。その発言を聞いた瞬間「よかったね、モートン」と思わずにはいられませんでした。

また、ポールは多くは語っていませんでしたが、2曲目に流れる『Hunter In The Hills』が、これまでのa-haとは異なる感じで良かったです。新しいa-haの曲のスタイルを垣間見た気がしました。

後半になるほど、マグネもモートンも表情が嬉しそうになっていたし(冒頭に書いたようにモートンの輝くような笑顔も見られました)、画面も明るくなっていくのが印象的でした。最後の曲はまた暗いイメージになってましたけどね。それでも、希望を持てる作りになっていたと思います。

環境問題について考えるのも、答えをだすのも、映画でもなければa-haでもない。彼等はただ、「今のノルウェーから発信できる課題」と「これからのa-ha」を音楽に乗せて世界に手紙を送っただけ。その手紙を手に取って読んで考えるのは私たち次第なのかなと。どこか、『a-ha THE MOVIE』への一部「アンサーソング」ならぬ「アンサーフィルム」になっている『True North』にそんなことを感じました。

まあ、こんなことを考えるのは、多分、彼等の年齢が私より8~11個上で、私にとっては「高校時代の新任~中堅の先生と同い年のお兄さんたち」だからだと思います。親ほどには年が離れてないけど、その中間で生き方や考え方を見せてくれるのが、自分にとってのa-haだったからです。4thアルバムも5thアルバムも、当時の私には理解できなくて、20代後半~30台、リリースされたときの彼等の世代になってから良さがわかった感じでした。この映画も、少しそんな気がします。まだ1回しか見てないので、何度かみるうちに、「ああ、これはこういうことかも」と自分の中でいろんなことが腑に落ちるのかもしれません。


モートンはテーマと同調する

最後に。モートンファン視点から(既にほぼモートンファン視点じゃんという話もあるかもしれないけど)。

パネル展にも展示されたモートンの画像や、『I’m In 』のPVのモートンは、結構年齢をそのまま出している感じで、いつもの格好良くてセクシーなモートンとは違う感じでしたが、映画の中では、思った以上にいろんな姿を見せてくれました。サングラスしてたり、笑顔だったりね。

これまでも薄々思ってはいたのですが、a-haとしてライブする時は割と若めの格好をしている反面、ソロ活動ではちょっと年齢が高く見える服装をしている気がします。スタヴァンゲル大学で環境問題についてのパネルセッションでもね。

『a-ha THE MOVIE』で、モートンのいうところの「中途半端にU2を目指した時期」は、ロン毛・はちまきでアイドルっぽさを捨てようとしている感じがすごくありましたし、逆に2012年のキャッチーさのあるアルバム『Out Of My Hands』ではプールに自ら入ってジャケ写を撮ったりとか。具体例を出すと長くなりすぎるので割愛しますが、今回の髭・ロン毛・お団子ヘア・眼鏡の、年齢相応のモートンは、「自然と共生する」というテーマと同調している気がしました。映画では勿論スタイリストさんもいるので、そちらの作戦もあるでしょうけれど。それでも歌っていると皺が減っていくのは相変わらず…(笑)。

そして、もう一つ。今回のモートンの発言の数々で、改めてモートンに惚れ直しました。『a-ha THE MOVIE』の時も仕事の姿勢に惚れ直したわけですが、今回はなんだろう…、マグネとポールの間にたって、中立としていられるその姿勢にまた惚れ直しました。

アルバムが楽しみ

前述したように、これまでのa-haとは毛色の違うと思われる曲もいくつかありました。噂に聞いてはいましたが、曲が全体的にすごくよくて、来月の新譜が待ち遠しいです。個人的に、『I’m In』『You Have What It Takes』以外で特に印象に残ったのは先ほども書いた『Hunter In The Hills』と、もう一つ『Bluest of Blue』でした。

アルバム発売後はぜひ、日本盤の映画DVDも出してほしいです。まずは来月が楽しみです。その前に、何回見られるかなー…。(明日は立川立飛予定でしたが、病院の予約が入ってることを忘れてました…。なので残念ながら無理そう…。)

投稿者: Tomoko

1985年7月4日、期末試験の直前で部活が休みだった日に、たまたまみたテレビ神奈川の「ミュートマ」で『Take On Me』を見てモートンに落ち、8月25日にアルバム発売というので誕生日プレゼントにしてもらって、モートンの声の多才さに感動。その後、タイトルを最後に言うタイプのラジオで「この声綺麗」だと思ったら「I've been losing you」で、これまたモートンだったことから、自分にとって最高の声だと確信。2010年の解散に伴い、翌年からノルウェー語を勉強しはじめ、現在はMCは聞き取れるようになりました。2022/05/20発売の『a-ha THE BOOK』で、モートンのソロについて書かせていただきました。

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