a-ha THE MOVIE感想

『a-ha THE MOVIE』の感想を書かなくてはと思い始めてから随分経ってしまいました。試写会、初日(有楽町、渋谷)、立川、有楽町(2回目)と計5回見てるんですが、時間が経つにつれ、「ああ…」となることも。

以下ネタバレを数多く含むのでまだ見てない人はブラウザのバックボタンで戻るか、そっと閉じるのをお薦めします。

映画は

  • a-haのメンバーの出会い
  • 『Take On Me』の歴史
  • デビューから最新までのアルバムをベースに歴史を振り返りつつのその頃のメンバーの思い
  • メンバーのソロ活動の理由
  • 現在の思い

などで構成されていて、冒頭からして現在のメンバーが映る(There is never a forever thing)から『Take On Me』そして、オープニング映像としての若い頃と現在の彼らが映る登場人物紹介のところでの『I’ve been losing you』の流れと選曲が見事でした。映画全体としてですが、あちこちに「対比」があるのも面白く感じました。まずスタートの『There is never a forever thing』。a-haは90年代後半の休止、そして2010年の解散をして戻ってきていますが、「戻るとは思っていた。それが”いつ”なのかということだ」(98年の復活時byモートン)、再結成後には「やりたいときにやる」(byポール、モートンそれぞれそのような発言)があるわけで、やるか・やらないかも含め「永遠に決まってることはない」と思わせるスタートです。それでいて、エンディングがライブで終わるのを考えると始まりと終わりのちょうど対になっています。

そして、80年代の『Take On Me』から今現在の『Take On Me』に変わった瞬間のモートンの立体感。まるで80年代のa-haそのものが『Take On Me』のマガジンの中のコンテンツそのものだったようにも見えます。ファンとしては、あのカメラ目線で手を伸ばしてるモートンをみるとまたキュン死しかけるのですが。(そして直後の現在のモートンでまた(笑))

『a-ha THE MOVIE』のノルウェーのレビューで「結婚してはいけない3人による結婚生活」とまとめた人がいました。これは結構言い得て妙だと思います。互いにリスペクトしあいながらも、ある程度、離れないとやってられないというのがなかなか…。まあ、普通に考えても、どんな気の合う同僚であっても、数ヶ月間同じホテルで出張で動くとなれば絶対大変なわけで…。a-haの場合、お互いがお互いにリスペクトがありつつも、80年代はどこかお互いがお互いのコンプレックスだったのではないかと思ってしまいます。

モートンは自分でいうように「自分の居場所」を求めて『Wild Seed』を作り(それも、当初の予定していたアラン・ターニープロデュースのソロを自分で作ったもので覆してまでして)、ポールとマグスは自分たちは曲で目立ちたいのであって、女の子にもてたいわけじゃないということで、心のどこかに、「モートンがいるから売れるけど、モートンがいるからピンナップスターにならざるを得ないんだ」「モートンは僕らと違って目立つことが平気な人」というのがあったのではないかと感じました。モートンも決して、ピンナップスターになりたかったわけではなく、「二人を作曲に集中するために自分が引き受けるべきだと感じていた」と『Hjemkomst』では言っていますから、居場所をそこに作ってしまって大変だったのではないかと思います。

80年代、ピンナップスターとしての彼らのことも消費してしまった自分は、そこになんとなく罪悪感を感じるんですけど、でも、それだけじゃなかったし、高校生当時の自分がクラスメイトに言っていた、「モートンは本当は曲を作りたいのに作ってもボツにされるか作らせて貰えてないのではないか」というのは、あながち全くの間違いではなかったな気がします。『Wild Seed』まで彼は曲作りはしてないので、ボツにされたというより、手出しできない雰囲気だったのかもしれませんが。

個人的に好きなシーンは、音声チェックのシーンとMTV Unpluggedの注文つけまくりのシーン。特にMTV Unpluggedの『Manhattan Skyline』のシーンは前半にある『I’ve been losing you』のシーンとの対比になってる気がします。この曲は同じセカンドアルバム『Scoundrel Days』の曲ですが、80年代のモートンは、ポールに歌い方を何度も指導され歌い直していました。でも、MTV Unpluggedのスタジオでは、「ずっと同じトーンで歌っていて息をつく暇が無い」、(30年前からそうだったろという指摘に対して)「だからずっと疑問に思ってた」と返しています。『I’ve been losing you』では指導しまくり、頭を抱えていたポールですが、ここ(MTV Unpluggedの『Manhattan Skyline』)ではモートンに言われて苦笑いをしています。80年代に比べると、寧ろなんか嬉しそうにも見えるような…。

これはモートンがキャリアを積んでソロ活動でも成果を出したからこその結果だと思います。まあ、映画の中ではソロ活動のシーンで一人だけPVでライブ風景がなかったことに微妙にモヤモヤはしているんですけど。参考までに入れて欲しかったライブ映像はこちらです。

そして、モートンがロンドンに行く二人に誘われたとき「既に旅行の先約があるから夏が終わるまで無理」と答えて、そこでなぜ「行きたくないから」という誤解が生まれたのかわからないと言っているシーンと、ポールが『Foot Of The Mountain』を作るときに自分の曲部分を引き上げたいと言って空気が悪くなったことについて、ポールが空気が悪くなった理由が読めなかったと言っているシーン。私は「それはお互い様だろうに…」と思いました。ロンドンへ行く二人(ポールとマグス)は、早く成功したくて焦っていたからモートンから「夏の終わりまでは無理」といわれて「あ、ダメなんだ」と思ったのではないでしょうか。それは「Foot Of The Mountain」を成功させたかったモートンやマグスが「引き上げたい」と言われて「それなら無理だ」と言ったのと、非情に構造は似ている気がします。なんだか合わせ鏡のようです。まあ、人間関係なんてそんなものですが…。

また、MTV Unpluggedのスタジオでマグスの提案に応じたモートンは、MTV Unpluggedでポールのダメだしにマグスが困ってるときには助け船を出しています。ここの助け合いは、80年代から90年代の、4th, 5thアルバムがモートンは腑に落ちないものの、他二人にはそんなことはなかったという描写との対になっていると思いました。

エンディングは、オープニングの開始前の映像およびライブ映像との対比ですね。オープニングでは、ライブ前のどこか表情の硬いポールとマグス、そしてふれあわない3人が、エンディングでは笑顔になってハグしてそしてアンコールの舞台に立つという。とても良いエンディングでした。

もしかしてこの映画、「対比」を出すことで『Take On Me』の3次元と2次元の行ったり来たりしているのを継承しているのかもしれませんね。これは、『Take On Me』をオマージュしていた、『Ready Player One』と同じかもしれません。(Ready..ではゲームの中と現実)

ひとつ残念なのはこの映画、途中から監督が「中立の視点」を失ってしまってるんですよね。途中までは本当に中立で面白いのに。主に後半20分くらいでしょうか(体感です、測ってないです)。徐々にですが監督がマグスをヒロインにしたてあげてしまったきらいがあるように思いました。マグスがストレスが原因で病気になり手術を受けるシーン。あれは映像として入れる必要があったのか、甚だ疑問です。

映画を通して、モートンはメンタル強く飄々としてる人・ファンサービスに余念がない人、ポールは傲慢な人という色づけを感じてしまい、それによって「マグスかわいそう」が目立ち過ぎる気がするんですが、他の二人だって悩んで色々あったあだろうし、マグスも強い部分がいっぱいあるだろうに、なんかちょっとヒロイン扱いが過ぎる気がしました。(逆にマグスがかわいそうというか…)

そして、映画で結構重たく書かれていた作詞/作曲のクレジット問題ですが、私個人としてはやはりクレジットしておいてほしいですね。それがたとえリフ部分だとしても。なんなら「リフ:マグネ」とかでも。

最後に。私は、今回映画をみて改めてモートンに惚れ直しました。仕事してる姿もファンサービスしてる姿もカッコイイですし、何より、『Take On Me』の力だけでなく、『a-haの魔法』を一番信じてるのはモートンだったのではという気がしました。特に最後のほうの「ニューオリンズに大きなブードゥ教の儀式ができるような家を借りて」のところですね。モートンは一緒にやれば魔法が使える事を知っていて、かつ、でも狭いところではダメだということもわかっていての「ニューオリンズで…」かなと思うのです。そして神頼みが入ってるところがこれまた面白いです。ブードゥ教のおまじないは強いと言われてますからね。そりゃ勿論、効果があるに違いありません。


おまけ:今度、映画とまではいかないまでも、メンバーの様子を撮ることがあれば、今度はぜひ、メンバーが互いをリスペクトしている部分をもっと出して欲しい気がします。特に『Cast In Steel』で復活する前、モートンがポールの曲を試してたときの映像とかあればいいのにと思います。ローレン(ポールの妻)撮ってないかしら。彼女、メンバー全員を格好良く撮る天才だと思ってるんですよね。(以下2曲はローレンが監督したPV)。

投稿者: Tomoko

1985年7月4日、期末試験の直前で部活が休みだった日に、たまたまみたテレビ神奈川の「ミュートマ」で『Take On Me』を見てモートンに落ち、8月25日にアルバム発売というので誕生日プレゼントにしてもらって、モートンの声の多才さに感動。その後、タイトルを最後に言うタイプのラジオで「この声綺麗」だと思ったら「I've been losing you」で、これまたモートンだったことから、自分にとって最高の声だと確信。2010年の解散に伴い、翌年からノルウェー語を勉強しはじめ、現在はMCは聞き取れるようになりました。2022/05/20発売の『a-ha THE BOOK』で、モートンのソロについて書かせていただきました。

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