a-ha The Movie:Aftenposten映画レビュー(一部ネタばれあり)

以下は、Aftenposten有料版記事の翻訳です。先に注意と補足をかきます。

  • 映画の一部ネタバレを含む可能性があります。予告編にあった部分にせよネタバレがいやだと言う人は読まないでください
  • a-haが「仲良しこよしのグループではない」のは、ノルウェーでは周知の事実です。本人たちも認めていますし、モートンは度々その手の質問を受けていて、ジョークで笑い飛ばしたりしています。針小棒大に言われるのは、日本のSMAP報道とよく似ています。
  • 文中、「殆どの人が知っている」というのが出てきますが、NRKでは1985年にビルボードでトップになった日を記念して5年おきに特番を組んだり、それ以外にも『モートン・ハルケットの歴史』『Take On Meの歴史』『Tilbake til fremtiden a-ha(英語にするとBack to the future a-ha)』『East of the sun, west of the moon a-ha』など、数々のインタビューで構成されたドキュメンタリーを作成しており、ノルウェー人は恐らく何度も見ています。なので、「はいはい、知ってるよ」になるのは当然です。近年ではマグネが『Datoen』でBridgesのこととモートンとの出会いを語っていますが、モートンとの出会い話は割と新しい話だった模様。当時、大きく新聞に取り上げられました。
  • Aftenpostenの見出しは最初は、『絶対結婚してはいけない(相性の)3人による、嵐のような結婚生活』だったようです。
参考:NRK Datoen マグスによるモートンとの出会い(日本語字幕付き)

以下、翻訳です。ポールの英語部分については、 『Bottomless Pit』のKaoru “Seiersfjell” K さんにお願いしました。


映画レビュー «a-ha: The Movie»: 機能不全のバンド版結婚生活

著:May Synnøve Rogne

1985年のことでした。私は15才でDuran Duranやプリンス、マドンナを聞いていました。ノルウェーの音楽はダサくて遅れていました。そんなとき、信じられないことが起きたのです。

トーマス・ロブサーム監督は、直近の4年間を通して彼らを追い続けています。このドキュメンタリー映画は、特に新しい情報はありません。彼らをよく知っている人達にとっては、知っていることの繰り返しが多く含まれています。とはいえ、これは映画が興味をそそらないものという意味ではありません。

映画は、3人の有名になりたかった青年の物語を伝えることに成功しています。彼らの創造的な論争が次第に効いてくるところはよく出来ています。有名になることは諸刃の剣となって、それぞれの異なった野心が次第にバンドに異なる方向性を生み出して行く様はエキサイティングでした。

ロブサームは、ロンドン時代の彼らのヒット前の多くの写真や映像の切り抜きを使って映画を作り上げており、これは監督にとって誇らしいことになるでしょう。この素材による演出は、映画を違った次元のものにしています。

とはいえ、この映画にも弱点はあります。

a-haのSaga(サガ)は、決して結婚すべきでない(相性の)3人による嵐にのような結婚生活だ。これは2019年のGiskeでの写真撮影時 写真:Motlys

新鮮な始まり

物語は、70年代のオスロから始まり、トーマス・ロブサームは、バンドの浮き沈みについて時系列に語っています。映画の冒頭は、これまでのミュージックドキュメンタリーとは異なる手法を期待させます。(バンドの)成長は一部の記録写真やアニメを構成する素材の数々を通して描かれます。そこからは、容易にスティーブ・バロンの伝説的なミュージックビデオ『Take On Me』が思いつきます。

ロブサームはこのつかみ部分から早々に離れて、結果として、ドラマチックな物語が言おうとしていることよりも、伝統的なドキュメンタリーの手法で映画を組み立てています。ロブサーム監督はバランスが取れており、誰もが自分の解釈を語れるようになるでしょう。しかし、パンチ力には欠けています。

個別インタビューの問題

蜂の巣穴に手を突っ込むようなものさ。ついには違いに殴り倒したくなる』というのはマグネ・フルホルメンの弁です。

映画の最大の問題点は、3人の間にある衝突の激しさを伝えきれないところでしょう。ある年のインタビューは、それぞれが別々に受けています。これは、彼らとの関係上良い方法ですが、映画としては問題です。彼らはあえて他のメンバーの発言に向き合いますが、互いに謝罪しあうような会話は3人の間にはありません。彼らは、彼らの間の揉め事をオープンに語りますが、私たちには彼らの具体的な部分は殆どわかりません。

神秘的なベールを築き上げた

映画は、彼ら3人に必要なのは「バンド心理学」だとコメントしています。それは、その通りでしょう。

a-haは友情で成り立っているのではない。僕らは音楽で繋がっているんだ』 モートンはそう言います。

もし、トーマス・ロブサームがもう少し無謀に自らの疑問に向き合っていれば、私たちは彼らの深層に近づけたかもしれません。しかし、いくつかの彼ら3人が一緒の素材だけではそれは無理な話です。映画を信じるなら、彼らはコミュニケーション方法はメールのみ。これが、映画を非常に奇妙な感じにする反面、バンドのイメージを包むようにもなっています。真相は神秘的なベールの中なのです。

このやり方が一番かもしれませんね?喧嘩や論争はバンドの歴史やイメージの中で、重要な部分なのでしょう。結局のところ、意見の対立と異なる3人の性格があってこそ、彼らは一緒に魔法を作り出せるのかもしれません。

綺麗に飾られた感

映画の中では、MTVアンプラグドのリハーサル中、ポール・ワークター=サヴォイが突然、全てをやりなおしにするシーンがあります。あまりにも洗練されすぎていて、移行部分が綺麗になりすぎると考えたのです。同じ事がこの映画についても言えます。個人的な諍いがバンドの内部を解剖してみる試みになったとはいえ、映画はその部分を綺麗に飾り立てているように見えます。疑問に向き合うことになるものの反論の余地はなく、3人のこれまでの背景には何のコメントもできません。監督は少しばかり、インタビューの対象をリスペクトしすぎているのかもしれません。

«I dont mind going through the painful bit if we can strengthen the legacy of the band»『俺たちがバンドの価値を高められるなら、少し辛いことがあるなんて、俺は気にしない』訳:Kaoru “Seiersfjell” K)というのは、ワークター=サヴォイの言葉ですが、彼はなぜか映画の中ではずっと英語です。こういった箇所は、結局、映画はバンドのイメージを拡張した一部にすぎないと感じさせます。ロブサーム監督は 私たちに、彼らが音楽史上大きな功績を残していることを忘れて欲しくなかったのではないでしょうか。

a-haが「忘れられた物語」になることは全くあり得ないでしょう。音楽は強いのです。何があっても、それを扱うのは、音楽になるのだから。

評価:4/6


投稿者: Tomoko

1985年7月4日、期末試験の直前で部活が休みだった日に、たまたまみたテレビ神奈川の「ミュートマ」で『Take On Me』を見てモートンに落ち、8月25日にアルバム発売というので誕生日プレゼントにしてもらって、モートンの声の多才さに感動。その後、タイトルを最後に言うタイプのラジオで「この声綺麗」だと思ったら「I've been losing you」で、これまたモートンだったことから、自分にとって最高の声だと確信。2010年の解散に伴い、翌年からノルウェー語を勉強しはじめ、現在はMCは聞き取れるようになりました。2022/05/20発売の『a-ha THE BOOK』で、モートンのソロについて書かせていただきました。

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