Hjemkomst+α:『Spanish Steps』誕生秘話、詩から詞へのこと

『Hjemkomst]』に『Spanish Steps』の誕生秘話が掲載されていたのでシェアします。

『5000Miles』は元々、モートンのソロ用ではなかった

『Spanish Steps』について、個人的にずっと不思議に思っていたことがあります。それは、以前、Håvard Rem氏から頂いた詩集の中の詩『Sent på kveld 』にあった直筆のコメント”This poem is the basis of the lyrics of “Spanish Steps”, Wild Seed” というコメント。あれ、確か『Spanish Steps』ってもとになった曲があったのでは?ということでずっと不思議だったのです。それが今回解けました。

90年代初め、Bjørn Nessjøと Bjerkestrandはフランスの女性歌手のプロデュースをしていた。彼らはフランス行きの飛行機に座る前に、何か外部の作曲から良い曲を貰ってテストできないかと考えた。Nessjøは古くからの友人である、ロックバンド、”The Kids” と”Stage Dolls”で知られるTorstein Flakneに電話をして何か良い曲がないかを聞いた。彼はその時大きい物はもっていなかったが、いくつかのアイディアと共に小さなアイディアがあった。NessjøはFrakneからカセットを貰いその最初の一つをウォークマンに入れて、飛行機で聞いた。ヘッドフォンから流れるある曲は、『5000 Miles』という名前だった。

どんだけ急に電話して持ってきて貰ってるのかすごく気になるんですけど。空港行く前に寄ったのか、空港から電話して持ってきて貰ったのか…。まあ、それはいいとして続きます。

フランス人の女性歌手はこの曲を喜ばずNGを出したのでこ『5000 Miles』は Bjørn Nessjøから再度Ole Edvard Atntosens(トランペット奏者)の手に渡りトランペットバージョンを演奏、そこでFlakne自身がまさに『5000 miles, I’m away from you 』というリフを歌ったのだった

一度はフランス人女性歌手に提供する予定となったこの『5000 Miles』は、こうして元の人の手に戻ったわけです。ちなみに、この Torstein Flakne。ノルウェーでは、1980年に『Hun er forelsket i Lærer’n』(彼女は先生に夢中)という曲が大ヒットしており、非情に有名な人です。 本人がクイズでイントロドンをやっている動画がこちら。イントロドンの後には、実はメタリカがトロンハイムでのコンサートでこの曲を演奏したんだよってことでその映像も入ってます。(メタリカ、たしかa-haの曲もやってたような…。なんでもこなすのね)

こちらは、その曲のPV.「僕は彼女に恋してるのに、彼女は先生に夢中なんだ、僕じゃなくて。」って歌ってます。

ちなみに、残念ながら動画は見つけられませんでしたが、2017年には彼がこのトランペット奏者のコンサートにゲスト出演しているようで、「トランペット奏者にこの曲ができるか懐疑的だったんだよね」と当時のことを話していたようです。

『5000 Miles』から『Spanish steps』へ

話がそれましたが、続きです。

94年か95年だと思う、アビーロードにいたらKjetil Bjerkestrandが連絡してきて、モートンが『5000 Miles』を少し見てみたいのだと言ってきた。ハルケットの陣営で、あっという間に『5000 Miles』はモートンとHåvard によって全く新しい歌詞の『Spanish Steps』へと変貌を遂げた。

これです。ここがまさにの部分です。要するに『 5000 miles, I’m away from you 』部分はそのまま、それ以外の詩は完全に別物になるわけです。

さて、この”あっという間に全く新しい歌詞へと変貌を遂げた”部分ですが、元になった詩があります。冒頭に書いた『Sent på kveld 』(夜遅く)という詩がそれです。詩の冒頭は「夜、誰もが寝静まった暗い廊下を裸の女性が歩いてくる。そこにリビングから男性が現れ、女性はその男性に倒れかかる。彼は彼女の肌をよく知っている。二人が敵同士の時は、彼女の服の下のことなんか覚えてないけど…(以下略)というような感じで、そうまさに歌詞の二番のこの部分を彷彿させます。全く同じではないですが…、彼の部分は自分になり色々追加されてます。

Late at night your footstemps
Barefoot on the floor
Tender eyes from sleeping
In the darkened corridor

I come up the stairway
My naked enemy
Comes stumbling towards me
Wish I could set you free

改めて歌詞を見ると、オリジナルのオフィシャルビデオの不思議な感じは歌詞そのものって感じですね。(今更ですが)

元のノルウェー語の詩は、韻を踏んでいるのと難しい言い回しがあり全部は訳せていないのですが、モートンとRem氏も、(この曲に限らず)『Wilds Seed』の全編にわたる元のノルウェー語の詩から英語にする過程ではかなり悩んだそうで、モートンはこう語っています。

(この時期までノルウェー語の詩について触れる機会はなかったと思うがHåvard Remとどのように向かいあったのかという質問に対し)
ー彼はそこにいて、僕はレコードにする作業をした。ナイフで形づくるようにして。僕はHåvardがだいすきだった、鋭くて興味深い奴だ。同時に彼は僕とは全然違っていた。一緒に仕事をし始めたときは、彼は自分の書く言葉に対してあまりにも言語的に厳密だった。僕はそれだとレコード向きではないと示し、僕たちはどう書いたらよいかを模索するのに少し時間をかけ、正しい声を見つけたんだ。

モートンとRem氏の二人はまずレオナード・コーヘンの詩の再編からはじめて、色々試行錯誤したそうでその上でのモートンの結論は、「最悪なのは、習った言葉通りに詩を再編すること。どうあるかではなく、(その詩で)どんな経験をしたかを語るべきだ」そうです。確かに『詩』って、ほんの数行なのに頭の中で物語がものすごい勢いで展開されるので、それをどう表現するかが一番難しい気がします。Rem氏の詩は特にその色が強いというか。『Sent på kvled』もそうですが、他の詩もほんの数行で違う世界に連れて行ってくれるんですよね。そう考えると、この『Spanish Steps』でモートンが経験したのは、夢のような現実のような不思議な世界にある愛情なのかも…と思いました。

『5000Mils away from you』とまるで夜な夜な抱き合っているような歌詞は一見そぐわないんですが、夢の中で会っているのか、傍にいないのに傍にいるというのは、今もなおモートンの歌詞世界にある一つの事象ですよね。たとえば「you are with me where ever I go」とか。それは、モートンの成り立ちに「神様はいつも傍にいる」というのがあるからこそあり得る考え方なのではないかと思いました。もともとのRem氏の描く詩もどこか、平安時代の古文に通じる「遠くにありて恋人を思う」部分が見えるときがあるのですが、それが二人の共通である「信仰」に基づいてるとするなら、ちょっと面白いというか興味深い気がします。

余談ですが、5000マイルは約8000kmだそうで、ちょうど盛岡からオスロまでがそれくらい(8043km)のようです。
東京からだと8400kmだから5219マイル、大阪・神戸からだと8300km、福岡が8246kmだからやっぱり5000マイルは超えてしまうようです。

投稿者: Tomoko

1985年7月4日、期末試験の直前で部活が休みだった日に、たまたまみたテレビ神奈川の「ミュートマ」で『Take On Me』を見てモートンに落ち、8月25日にアルバム発売というので誕生日プレゼントにしてもらって、モートンの声の多才さに感動。その後、タイトルを最後に言うタイプのラジオで「この声綺麗」だと思ったら「I've been losing you」で、これまたモートンだったことから、自分にとって最高の声だと確信。2010年の解散に伴い、翌年からノルウェー語を勉強しはじめ、現在はMCは聞き取れるようになりました。2022/05/20発売の『a-ha THE BOOK』で、モートンのソロについて書かせていただきました。

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